アルカンへの誘い

22127_132565753048人の大作曲家

ショパン、シューマン、リスト、アルカン、ブラームス。

ベートーヴェン以降で最も重要なピアノ音楽の作曲家5人として、1906年、ブゾーニ(バッハの編曲などで有名な作曲家です)が挙げたのが、彼らの名でした。いずれも、誰もが耳にしたことのある名前だろうと思います。

――ただひとりを除いては。

彼の名はアルカン――シャルル=ヴァランタン・アルカン。

いったいこのアルカンというのは誰なのか? 本当に、「ピアノの詩人」ショパンとか、「ピアノの魔術師」リストなんかと並ぶほど凄いのか? ブゾーニとかいう人が勘違いしただけなんじゃないのか? ……さて、実際のところ、どうなのか。

ゾーニはなにひとつ間違っちゃいない!

アルカンは偉いんだ、と主張したい人は、大概このブゾーニの記述を引用するのですが、それは他にあまり根拠にできるような文献がないからでもあります。ということは、その頃アルカンを評価していたのは結局ブゾーニひとりなんじゃないか。こいつひとりの言い分がそんなに信用できるものか。そう言いたくなる気持ちもわからなくはありません。

しかし、ブゾーニは何もこの発言を、アルカンを称揚するために行ったわけではないのです。リストの出版譜の巻頭言で、「ショパン、シューマン、アルカン、ブラームスと並ぶほど、リストは重要な作曲家なのですよ」という形で、この内容を述べたのです。

ブゾーニだって偉大で才能のある音楽家です。その彼がごく自然に思い浮かべた中に、アルカンの名前があった。このことが、何かを意味していないわけがありません。

私が実際にその音楽を演奏してきた上で、アルカンを上記のほかの4人と並べることについて、なにひとつ違和感を抱きません。むしろ個人的にはまったく同時代のショパン、シューマン、リストの誰よりも優れていると感じるほどです。まあ、要するに趣味が合う、というだけの話なんでしょうけど。

むほどに味が出る魅力を紹介

アルカンは一部の人には、「頭のおかしい超絶技巧ピアノ音楽」の作曲者として認識されているようです。あるいは、「狂ってるとしか思えない速度で弾くピアノ音楽」の作曲者として。

むろん、そういった側面は確かにあることはあるのです。しかし、それ以外に語るべきことがない、というような理解をしているなら、いますぐ改めるべきです。

当サイトでは、その気宇壮大な超大曲から、珠玉としか言いようのない小品まで、その魅力を少しずつでも広めていきたいと思っています(その一環としてPTNAのサイトで『エスキス』の全曲解説&エッセイを連載していました。こちらからどうぞ)。